やなせたかしと井伏鱒二の関係は?厄除け詩集・夜ふけと梅の花がアンパンマンの伏線【朝ドラあんぱん】

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詩集を読むやなせたかし
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やなせたかし夫婦をモデルにした朝ドラ「あんぱん」が放送中ですね。

「あんぱん」では、北村匠海さん演じる柳井嵩(モデル:やなせたかし)は、井伏鱒二さんの詩集を愛読しており、戦地にも持っていくというエピソードが描かれます。

実際、やなせたかしさんは中学生の頃に井伏鱒二さんの詩に出会い、その後の創作活動に大きな影響を与えたそうです。

そこで今回は、

  • やなせたかしが戦地で井伏鱒二の詩集を愛読した史実は?
  • やなせたかしは井伏鱒二から影響を受けた?
  • やなせたかしと井伏鱒二の交流・関わりは?

について詳しくご紹介していきます!

あんぱんに登場する「井伏鱒二の詩集」エピソードとは?

本を手に取っているやなせたかし

やなせたかし夫婦をモデルにした朝ドラ「あんぱん」では、井伏鱒二さんに関わる場面が3回も登場します。

まずは、朝ドラ「あんぱん」でのエピソードを振り返ってみましょう。

①井伏鱒二の詩がセリフの中に

あんぱん第5週では、女子師範学校に合格したヒロイン・のぶ(今田美桜)が高知市に旅立つシーンが描かれました。

その際、寂しそうにのぶを見送る嵩(北村匠海)に対し、屋村草吉(阿部サダヲ)がこんなセリフを放っていました。

〜あんぱん第5週〜

かたや新天地へ、かたや浪人・・・惨めだなぁ。

”花に嵐のたとえもあるぞ、さよならだけが人生だ

浪人生になった嵩を茶化すように投げかけたこのセリフは、井伏鱒二の有名な翻訳詩「勧酒」の一節ですね。

このさかづきを
うけてくれ
どうぞなみなみ
つがしておくれ 
はなにあらしのたとへもあるぞ
さよならだけが人生だ


勧君金屈巵満酌不須辞 
花発多風雨人生足別離

井伏鱒二・厄除け詩集「勧酒」より 

井伏鱒二が翻訳したこの詩のテーマは「別れ」です。

この詩自体には、「別れの時が来たので、その別れを惜しむ」という意味だけでなく、「人生に別れはつきものだから、今この時を大切にしよう」という解釈もあります。

「あんぱん」での屋村は、「人生に別れはつきものだね〜」という哀愁や虚しさと、嵩へのちょっとした励ましが感じられました。

②古本屋で手に取る詩集が井伏鱒二

その後、あんぱん第6週では、嵩が上京し、新たな生活が始まるエピソードが描かれました。

そんな中、銀座の本屋さんで嵩が手に取ったのが井伏鱒二の「厄除け詩集」です。

この時の時代設定は、1937年(昭和12年)です。

井伏鱒二さんの「厄除け詩集」の初版は、ちょうど1937年。

嵩が手に取った頃には、まだ発売されたばかりだったはずです。

さらに、当時は「150部」の限定発売だったので、書店で偶然巡り会ったのはかなりラッキーと言えるでしょう。

ちなみに”厄除け”とは、読むと何かご利益があるという不思議な本ではありません。

井伏鱒二さん自身が、ネガティブな気持ちになっても、とにかく詩を書くことで厄を跳ね除けようとしたことが「厄除け詩集」の由来のようです。

また、「詩を書くことは、風邪をひかないおまじないなんだ」と井伏鱒二さんが詩集の中で語っています。

③戦地に持っていく詩集が井伏鱒二

そして、3回目の登場は、あんぱん第11週です。

時間が進み、時代は1942年(昭和17年)となります。

嵩は出征して軍隊生活が始まりますが、その時にカバンに忍ばせていたのが井伏鱒二の「厄除け詩集」でした。

嵩が「厄除け詩集」を購入したのは約5年前ですが、その間大事に読み返していたのでしょうね。

また、「生きて帰りたい」というおまじない(厄除け)のつもりで持ってきたのかもしれません。

残念ながら、古兵たちに見つかって詩集は踏みつけられてしまうのですが・・・

この「井伏鱒二の詩が好き」という点が伏線となり、ある人物と繋がることになります。

やなせたかしが「井伏鱒二の詩集」を愛読していた史実とは?

本を読んでいるやなせたかし

やなせたかしさんは、中学生の時から井伏鱒二さんの詩を愛読し、影響を受けて自分で詩を書くようになったそうです。

やなせたかしさんが、井伏鱒二さんからの影響について詳しく語っているのは、著書「絶望の隣は希望です!」の中です。


詳しくみていきましょう。

中学の頃に井伏鱒二の詩集と出会う

やなせたかしさんは、幼い頃から、父が遺していた多くの書籍を読み漁っていました。

海外文学のほか、「島崎藤村」や「三木露風」の詩集、「石川啄木」の歌集などに影響を受け・・・

なんと、「自分が書く文章も古臭くなってしまう」ことに当時は悩んでいたそうです。

そんな中、中学の終わり頃に、古本屋で井伏鱒二の「夜ふけと梅の花」を手に取ります。


【夜ふけの梅の花・山椒魚(井伏鱒二)】
新興芸術派叢書の1冊として、昭和5年4月に刊行された『夜ふけと梅の花』収録15篇に、同人誌『世紀』掲載の「山椒魚」の原型でもあった著者の処女作「幽閉」を併録。

当時のやなせたかしさんは、「井伏鱒二」という名前も知りませんでした。

しかし、井伏鱒二さんの紡ぐ詩のリズムに魅了されたようです。

その後は、井伏鱒二さんの弟子である太宰治さんの「津軽」「晩年」なども読み、「心を打たれた」と語っています。


感化されて自分で詩を書くようになる

井伏鱒二さんや太宰治さんの詩に感化されたやなせたかしさん。

「自分でも書いてみよう」と、中学生の頃に詩を書くようになったそうです。

朝ドラ「あんぱん」では、漫画ばかりを書いている青年でしたが、実際には、詩にも挑戦されていたのですね。

そして、新聞や雑誌に自分の書いた詩を応募したそうです。

しかし、残念ながら一度も入選せず、詩の創作から離れてしまったんだとか・・・。

井伏鱒二「厄除け詩集」で再熱

その後、やなせたかしさんは大人になってから再度、詩を書き始めます。

それは、井伏鱒二さんの代表作となる「厄除け詩集」を手に取ったからでした。


【厄除け詩集(井伏鱒二)】
そこはかとなきおかしみに幽愁を秘めた「なだれ」「つくだ煮の小魚」「歳末閑居」「寒夜母を思ふ」等の初期詩篇。“ハナニアラシノタトヘモアルゾ「サヨナラ」ダケガ人生ダ”の名訳で知られる「勧酒」、「復愁」「静夜思」「田舎春望」等闊達自在、有情に充ちた漢詩訳。深遠な詩魂溢れる「黒い蝶」「蟻地獄(コンコンの唄)」等、魅了してやまぬ井伏鱒二の詩精神。4部構成の『厄除け詩集』。

やなせたかしさんは、井伏鱒二さんの「厄除け詩集」を読み、「こんなにわかりやすく書いてもいいのなら、自分ももっと書けそうだ」と思ったようです。

それ以来、思いついたら詩を書き留めるようになっていきます。

後のやなせたかしさんは、アンパンマンの作者としてではなく、詩人としての一面も持つようになります。

「手のひらを太陽に」などの有名曲でも発揮されるように、井伏鱒二さんのようなシンプルでわかりやすい詩が人気を博していくのでした。


また、日常の出来事や身近なものを題材にしたり、人生の無常感や人間の悲しみのような部分を詩に映し出すのは、2人の共通点と言えるでしょう。

井伏鱒二はやなせたかしの創作の原点

やなせたかしさんの著書「絶望の隣は希望です」では、「創作の原点は井伏鱒二」とはっきりと書かれています。

なぜなら、やなせたかしさんにとって、詩と絵はセットでした。

やなせたかしさんは、詩を書いていると絵が浮かび、絵を書いてくると言葉が浮かんでくるという創作スタイルを持っていました。

そんな「詩」と「絵」の始まりとは、まさに井伏鱒二さんの詩だったのです。

さらに、やなせたかしさんの著書「アンパンマンの遺書」には、「井伏鱒二さんらがアンパンマンを書く伏線になった」とも語られています。

このフランケンシュタインと井伏鱒二と太宰治と、その他いろいろがごっちゃになって、後世アンパンマンをかく伏線になる。

やなせ たかし. アンパンマンの遺書 (岩波現代文庫) (p. 47)

通常、NHKのドラマでは、具体的な固有名詞が出てくることは少ないですよね。

しかし、朝ドラ「あんぱん」では「井伏鱒二」としっかり実名を出してきているのが気になります。

おそらく、ドラマの中でも、アンパンマン誕生につながっていく伏線となっているのでしょう。

戦地で井伏鱒二の詩集を読んだ実話はない

一方で、「やなせたかしさんが戦地に井伏鱒二さんの詩集を持っていった」というエピソードは、関連図書を読んでも確認できていません。

そのため、これは朝ドラ「あんぱん」のオリジナルストーリーである可能性が高いと思われます。

しかし、文学青年であったやなせたかしさんのことです。

何かしら心の安定に繋がるような書籍を持っていっていた可能性も否定できません。

あんぱんでの嵩は、「井伏鱒二の詩集」を通じて、ある人物から目をかけてもらえるようになります。

その人物との関わりを描くために、あえて「井伏鱒二の詩集」というアイテムをドラマに取り入れたのではないかと推測できます。

あんぱん八木(妻夫木聡)のモデルについてはこちらの記事をどうぞ。

井伏鱒二とやなせたかしの交流は不明

井伏鱒二さんは、やなせたかしさんの20歳以上年上ですが、実際に交流はあったのでしょうか?

残念ながら、実際に会っていた、手紙の交流があった等の情報はありません。

しかし、井伏鱒二さんの出身地、広島県福山市の資料館に、やなせたかしさんの作品が展示されていた時期もあるようです。

鞆の浦歴史民族資料館には、「鞆の浦(とものうら)」というエリアを詠んだ万葉の歌がやなせたかしさんの字で書かれています。

よく見ると、アンパンマンのイラストも!

やなせたかしさんのこの作品は、「鞆の浦」を愛していた井伏鱒二さんとのご縁から生まれたんだとか。

やなせたかしさんは、様々な仕事を引き受ける中で交友関係がとても広かったようです。

井伏鱒二さんは1993年に亡くなられていますが、生前には、なんらかの形でやなせたかしさんと交流があったかもしれません。

井伏鱒二(いぶせますじ)のプロフィール

井伏鱒二さんは、日本近代文学を代表する作家の1人です。

名前井伏鱒二(いぶせ ますじ)
生没年1898年2月15日 ~ 1993年7月10日
出身地広島県安那郡加茂村(現・福山市加茂町)
学歴早稲田大学文学部仏文学科(中退)
職業小説家、詩人、翻訳家
主な受賞歴直木賞(1938年)、読売文学賞(1950年)、野間文芸賞(1966年)、文化勲章(1966年)
代表作(小説)『山椒魚』(1929年)、『ジョン万次郎漂流記』(1938年)、『黒い雨』(1966年)、『本日休診』など
代表作(詩)『厄除け詩集』
翻訳「ドリトル先生」シリーズ
その他太宰治の師としても知られる

小説家であり詩人でもある井伏鱒二さん。

小説の代表作「山椒魚」は、高校の現代文の教材としても使われることが多くなっています。

また、故郷の広島を舞台にした小説「黒い雨」も代表作の一つ。


小説「黒い雨」は、1989年に元キャンディーズの田中好子さん主演で映画化もされています。

数々の映画賞を受賞したこの映画は、英語圏でも「Black Rain」という題名で上映されました。


以前読んだことがある方もない方も、戦後80年という節目の今に読み直してみると良いかもしれません。

まとめ

今回は、朝ドラ「あんぱん」のモデルになっているやなせたかしさん、そして創作に影響を与えた井伏鱒二さんとの繋がりについてご紹介しました。

まとめると、

  • やなせたかしさんは中学の頃から井伏鱒二さんの詩を愛読
  • 愛読書は「厄除け詩集」「夜ふけと梅の花」
  • 井伏鱒二の影響を受けてアンパンマン誕生に繋がる
  • やなせたかしさんが戦地に井伏鱒二の詩集を持っていった史実は確認できない

ということでした。

今後、朝ドラ「あんぱん」でも井伏鱒二さんがどのように関わってくるのか見届けていきましょう!

あんぱん第11週以降のあらすじはこちらから。

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