朝ドラ「ばけばけ」では、幽霊になって水飴を買いに来ていた女の怪談が登場します。
松江に伝わるこのお話は『水飴を買う女』として、小泉八雲が世界へと発信しました。
実は、この怪談は全国各地に似たような伝承が残されており、あの「ゲゲゲの鬼太郎」のルーツともされているのです。
この記事を読めば、「水飴幽霊」や「子育て幽霊」の怪談について、より理解が深まるでしょう。
- 松江・大雄寺の「水飴を買う女」の怪談あらすじ
- 小泉八雲が「水飴を買う女」に胸を打たれた理由
- 全国の「水飴幽霊」の怪談とゲゲゲの鬼太郎の関係
松江・大雄寺に伝わる「水飴を買う女」の怪談あらすじは?
「水飴を買う女」は、島根県松江市中原町にある「大雄寺(だいおうじ)」の墓場に伝わる怖い話です。
〒690-0874 島根県松江市中原町234
この物語を一言で言うと、
死んだお母さんが幽霊になって子供を育てていた
と言う怪談です。
一体どのような怪談なのか、詳しい内容を見て行きましょう!
※一部わかりやすくするため、セリフなどを入れています。
毎晩現れる女

かつて、中原町には水飴を売っている小さな飴屋がありました。
水飴というのは、今のような砂糖ではなく、「麦芽」から作った琥珀色のもの。
母乳の代替え品として、赤ちゃんに与えるものでした。
そんな飴屋には、不思議な客がいました。
毎晩、白い着物を着た、青白い顔の女が水飴を買いに来ていたのです。
「水飴を・・・一厘ください」
飴屋は、女があんまり痩せこけていて顔色が悪いため、不審に思っていました。
「あんた、どこか具合が悪いのかい?」
「・・・・」
店主は親切に何度か尋ねてみましたが、女は何も答えません。
女の後をつける飴屋

ある晩のこと。
その日も、例の女が飴を買いに来ました。
気になった飴屋は我慢できず、好奇心から女の後をつけることに・・・。
すると、女は同じ中原町にある「大雄寺の墓場」へと帰っていくではありませんか。
「なぜ、墓場に・・・?」
飴屋はとたんに怖くなり、足早に家へと逃げました。
土の中から聞こえる声

また別の晩に、いつものように女がやってきました。
しかし、その日は水飴を買おうとしません。
「私と一緒に、ある場所へついてきて欲しいのです」
女は、飴屋に自分と一緒についてきてほしいと懇願します。
そこで飴屋は、友人らも連れて、女の後をついていくことにしました。
行き先はやはりあの「墓場」です。
とある石塔のところまで来ると・・・
突然、女の姿がパッと消えてしまいました。
すると、地面の下から、なんと赤子の泣き声が聞こえてきたのです。
「オギャー、オギャー」
赤ちゃんを救い出す

「ここを掘るぞ!」
飴屋や友人らは、その石塔の下を掘り起こすことにしました。
すると、墓の中には、毎晩水飴を買いに来ていた女の亡骸が眠っていました。
そのそばには、生きている赤子が1人、こちらを向いてニコニコ笑っていたのです。
「赤ん坊が・・・生きている・・・」
赤子のそばには、水飴を入れた小さな茶碗が置いてありました。
母親の幽霊は、その水飴で子供を養っていたのです。
墓の中で生まれた命

その母子には、一体何があったのか・・・。
実は、この母親は妊婦で、出産途中に死産となり土葬されていました。
まだ冷たくならないうちに葬られていたのです。
そのため、墓の中で赤子が生まれてしまいました。
母親の命は尽きてしまいましたが、赤子を見捨てることはできません。
子を想う母は幽霊へ・・・。
そして、水飴で命を繋ごうとしたのです。
以上が、大雄寺の墓場に伝わる「水飴を買う女」の怪談のあらすじでした。
小泉八雲が「水飴を買う女」に胸を打たれた理由は?

この怪談は、後に小泉八雲によって世界に紹介されることとなります。
しかし、それは彼にとって、ただ取材した「怪談」というよりも深い意味を持つものでした。
朝ドラ「ばけばけ」では、この話を聞いたヘブン先生(小泉八雲がモデル)が涙を流すシーンが描かれます。
それは、「自分の不遇な幼少期と重ね合わせたから」だと言われています。
母親への想い
小泉八雲は、4歳の時に実の母(ローザ)と生き別れ、二度と会えずに育っています。
「自分は母に捨てられたのではないか?」という孤独感。
「母は自分を愛していたはずだ」という渇望や祈り。
その両方を抱え続けていた八雲にとって、この怪談は「母親というものは、死んでも子供を見捨てないものだ」という、ある種の救いだったのです。
彼はこの幽霊に、会えなかった自分の母の面影を重ねていたと言われています。
ただの怪談ではない
小泉八雲は、この話を『知られぬ日本の面影(Glimpses of Unfamiliar Japan)』の中に収録しました。
彼はこの怪談を怖い話としてではなく、「死してなお子供を守る、崇高な母性愛の物語」として紹介したかったようです。
そのため、「水飴を買う女」の物語の最後は、このように結ばれています。
ーー母の愛は、死よりも強いのである。
引用:小泉八雲作品集全訳(平井呈一)
ゲゲゲの鬼太郎はその時の赤子?全国に伝わる「水飴幽霊」
この「母が幽霊となって子供を育てる」という話。
実は、松江特有のものではありません。
全国には、
- 子育て幽霊
- 飴買い幽霊
- 水飴幽霊
などとして、京都の立本寺や各地の寺院に伝わる怪談として知られています。
「幽霊が飴(地域によっては団子や餅)を買いにくる」「墓の中で赤ん坊が見つかる」というのは共通パターンです。
京都の飴屋では、この怪談にあやかり、実際に「子育飴」という商品も販売されています。
京都でハロウィンのお菓子といったら
— 【準公式】国宝 黄檗山萬福寺𝕏まんぷくじ (@manpukuji_X) October 21, 2025
やっぱり幽霊子育飴じゃあないんですかね? pic.twitter.com/XXStG3CYuA
助け出された赤子のその後
一方で、多くの伝承では、助け出された赤ん坊には「後日談」があります。
墓場で生まれた子供は、「特別な力を持った子」として、その寺で育てられることに・・・。
そして「高名な僧侶(高僧)」になったと伝えられています。
実在した僧侶として最も有名なのは、
通幻禅師(つうげんぜんじ)
という南北朝時代(1300年代)の人物。
曹洞宗の教えを全国に広めた開祖となり、多くの優秀な弟子を育て上げました。
通幻禅師の生まれは諸説あるものの、「不思議な生まれの子は、聖なる力を持つ」という信仰が背景にあるようです。
赤子は「ゲゲゲの鬼太郎」へ
この「子育て幽霊」の伝説。
水木しげるさんの妖怪漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の誕生にも深い関係があります。
水木しげる先生が描いた「鬼太郎」の誕生シーンをご存知でしょうか?
鬼太郎の母(岩子)は身重のまま病死して埋葬され、土の中(墓場)で鬼太郎が生まれ、自力で脱出してくるのです。
特別企画展「水木しげる 魂の漫画展」9/23まで開催中。
— 鹿児島県霧島アートの森 (@open_air_museum) July 28, 2025
月刊漫画「ガロ」(1966年3月号 青林堂)に掲載された「墓場の鬼太郎 鬼太郎の誕生」の生原稿(一部)を霧島展でのみ展示しています。水木さんの魂のこもった原画の迫力は必見!
※展覧会の詳細は公式HPをご覧ください。 pic.twitter.com/wedBVTTSzj
出産を目前にして夫共々死亡してしまう。
引用:墓場鬼太郎の登場人物
哀れに思った水木は妻のみを埋葬するが、墓地から生まれるはずだった男の子(=鬼太郎)が這い出て来た。
これはまさに、「水飴を買う女」がモチーフになっているとされています。
先ほどご紹介したように、元々の民話では「赤子は高僧になる」という結末でした。
しかし、水木先生は紙芝居『墓場鬼太郎』を描く際、これを「墓から生まれた子は、幽霊族の生き残り(妖怪)である」という設定にアレンジしたのです。
| 赤子の設定 | |
| 民話.ver | 不思議な力を持つ子供(高僧) |
| 水木しげる.ver | 幽霊族最後の生き残り(妖怪) |
水木しげるさん夫婦を題材にした「ゲゲゲの女房(2010年)」でも、この紙芝居のシーンが描かれていました。
「ばけばけ」にも登場するこの怪談は、「ゲゲゲの鬼太郎」の元ネタになったという側面もあったのですね!
怪談「水飴を買う女」に関するQ&A

「水飴を買う女」の怪談はいつ頃の話ですか?
最も広く知られている設定は「江戸時代初期」です。
全国各地の伝承によって多少異なります。
「水飴を買う女」は実話ですか?
実話の部分と、実話でない部分があると思われます。
「墓地で何らかの事情により子供が保護された」「それを飴屋が助けた」というような、中心の出来事が実際にあり、それが長い年月をかけて怪談として完成された可能性が高いようです。
元ネタとしては、中国の古い書物(南宋時代の『夷堅志』)に「餅を買う女」という非常によく似た話があります。
これが日本に伝わってアレンジされたという説が濃厚です。
そのため、「幽霊が買いに来た」というパートは、中国の話を元にした伝説(作り話)かもしれません。
「水飴を買う女」に似た話はどこにでもあるのですか?
北海道から沖縄まで、全国各地に似た話が残っています。
最も有名なのは「京都府」や「兵庫県」に残る伝説です。
島根の「水飴を買う女」は小泉八雲によって有名になりましたが、他にも、石川、福井、山口、長崎、福岡、千葉、静岡などが舞台となっています。
まとめ
今回は、松江市中原町の大雄寺に伝わる「水飴を買う女」の怪談についてご紹介しました。
最後にポイントを振り返りましょう。
- 「水飴を買う女」は、幽霊となっても我が子を育てようとした「母の深い愛情」を描いた物語。
- 小泉八雲は生き別れた実母の面影をこの幽霊に重ね、「母の愛は死よりも強し」と称えた。
- 水木しげる先生のアレンジにより『ゲゲゲの鬼太郎』誕生の元ネタになった。
この背景を知った上で朝ドラ「ばけばけ」を見れば、ヘブン先生(八雲)が流す涙の意味が、より深く胸に響くことでしょう。
怪談「松風」のあらすじや舞台はこちらの記事で解説しています。



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