やなせたかし夫婦をモデルにした朝ドラ「あんぱん」。
あんぱん第12週「逆転しない正義」では、中国福建省の現地の少年・リンが登場します。
岩男の部隊の雑用係として使われている「リン」ですが、岩男と親子のように仲良しです。
そんな中国人の子供「リン」の実在モデルと言われているのが・・・
やなせたかし原作の童話『チリンのすず』の主人公「チリン(子羊)」です。
そこで今回は、
- あんぱんのリンのモデルは「チリン」?
- 「チリンのすず」はどんな話?結末は?
について詳しく解説していきます!
この記事は、朝ドラ「あんぱん」の今後の展開を含む可能性がありますのでご注意ください。
やなせたかしの「チリンのすず」とはどんな話?結末は?
「チリンのすず」とは

「チリンのすず」とは、1978年に発売されたやなせたかし先生の絵本です。
生まれたばかりの子羊「チリン」を主人公に、狼の「ウォー」との複雑な関係性と成長、別れが描かれた物語です。
この作品は「チリンの鈴」としてサンリオでアニメ化もされています。
※アニメ版と絵本版ではストーリーが多少異なります。
「チリンのすず」は、可愛らしい表紙とは裏腹に、子供向けにしてはとても考えさせされる内容となっています。
中には「子供の頃に見てトラウマになった」という人もいるほど、悲しく切ない物語なのです。
一体、どのようなストーリーなのでしょうか?
「チリンのすず」のストーリー
「チリンのすず」の内容を紙芝居風でご紹介します。

チリンは、この春生まれたばかりの子羊です。
チリンの首には、いつ谷底に落ちてもすぐ分かるように”金色のすず”がついていました。
すずは風に揺れ、「チリン」「チリン」と鳴りました。
だから「チリン」という名前がついたのです。
チリンは、お母さんにもお父さんにも、目の中に入れても痛くないほど可愛がられていました。

牧場の北のほうに、恐ろしい形の岩山がありました。
その岩山に「ウォー」というオオカミが住んでいました。
ウォーの吠える声は風に乗って、チリンの牧場まで聞こえました。
お母さんはチリンに言いました。
母:チリン、あんまり遠くへいっちゃダメよ。オオカミに食べられますよ。
チリン:羊なんて毛がモジャモジャして食べにくいのに。緑色の草の方がおいしいのに。
母:でも、オオカミは羊を食べるのよ。
チリン:ほんとかなぁ?
チリンには、お母さんの言うことはよくわかりませんでした。

ある夜のこと。
狼のウォーは、山を降りてチリンの牧場をおそいました。
真っ暗闇の中で戦いが続きます。
でも、弱い羊は狼のウォーの敵ではありません。
羊たちは皆なくなりました。
チリンのお父さんとお母さんも。

チリンは生きていました。
お母さんは自分のお腹の下に、チリンを隠していたのです。
お母さんのお腹の下から這い出してきたチリンは、叫びました。
チリン:ぼくたちはなぜおそわれるんだ?なんにも悪いことしなかったのに・・・!
チリンの小さな体は、お母さんの血で真っ赤に染まっていました。

チリンはウォーの住んでいる岩山に登っていきました。
お腹がいっぱいになって居眠りをしていたウォーは、夢の中で鈴の音がしたような気がして、目を覚ましました。
ウォー:なんだおまえは?
チリン:ぼくは子羊のチリンです。
チリン:ぼくもあなたのような強いオオカミになりたい。ぼくをあなたの弟子にしてください!
ウォー:おれはオオカミのウォーだぞ?今はお腹がいっぱいだからお前を食べないが、気が変わらないうちに早く帰れ。
でも、嫌われ者のウォーはこんなことを言われるのは初めてでしたので、心の中がふわぁーっと温かくなりました。

こうしてチリンは、オオカミのウォーの弟子になりました。
毎日毎日、激しい訓練が続きます。
ウォー:そんなことじゃあダメだ!ウォーっと吠えてみろ!
チリン:はい!先生!めぇぇぇぇ!
羊がオオカミになるのは、やはり無理のようでした。
ウォー:ダメだダメだ!やはり羊はオオカミにはなれない。もうあきらめて、もとの羊にかえるんだな。
チリン:ウォー、ぼくはどんなことをしても我慢する。ぼくはどうしてもオオカミになるんだ。

そして春が過ぎ、夏が過ぎ、秋も過ぎ・・・冬も過ぎていきました。
チリンの頭には小さな角がはえ、だんだんたくましく育っていきました。
チリン:ぼくは負けないぞ。オオカミよりも強くなるんだ!
3年目には、チリンはどこから見ても羊には見えないものすごい獣(けだもの)になりました。

チリンの首には、昔のようにすずがついていましたが、今ではその鈴の音を聞いただけで、みんな震えあがりました。
チリンとウォーは「二人組の暴れ者」として、このあたりでは誰しらぬものもいないほど、恐れられるようになったのです。
ウォー:いいか、チリン。今夜はあの羊の牧場を襲う。
チリン:いいとも。ぼくたちは最後まで一緒だ。
チリンとウォーは、羊の牧場を目の下に見下ろす崖の上まで来ました。

その夜は、激しい嵐になりました。
嵐を突いてチリンは丘を駆け下ります。
チリン:ぼくがまずは犬をやっつける。犬の鳴き声が聞こえたら、ウォーはまっすぐ羊小屋を襲ってくれ。
そう言い残して、チリンの姿は闇の中に消えました。
やがて羊小屋の方から、けたたましい犬の鳴き声がします。
ウォー:今だ!!
ウォーも続いて丘を駆け下りていきます。

しかし、あと一息で羊小屋という時。
草むらの中から黒い影が飛び出してきて、ウォーに襲いかかりました。
青い稲妻に照らし出されたのは、チリンです。
ウォー:ああ!チリン!!よくも俺を裏切ったな!
チリン:ぼくのお母さんはお前にやられた!お前はお母さんのカタキだ!
ウォー:なんだとぉ?
チリン:ぼくはこの時が来るのを、今か今かと待っていた。
チリン:お前より強くなるために頑張ったんだ!覚悟しろー!
チリンの鋭い角は、オオカミの胸に突き刺さりました。
ウォーはかすかに目を開けて言いました。
ウォー:ずーっと前から・・・いつかこういう時が来ると・・・覚悟していた・・・
ウォー:お前にやられてよかった・・・俺は・・・・喜んでいる・・・・

嵐の夜が明けたとき。
チリンは岩山の断崖の上で、うなだれていました。
チリン:ぼくはお母さんのカタキを取った。しかし、ぼくの胸はちっとも晴れない・・・。
チリン:許してくれ・・・ウォー。お前がいなくなってはじめてわかった。
チリン:お前はぼくの先生で、お父さんだった・・・。
チリン:ぼくはいつの間にか、お前を好きになっていたんだ。
チリン:でも、もうぼくは羊にはかえることはできない・・・。
チリンは泣きながら、どこともなく、山を越えていきました。

今でも激しい嵐の夜には、風に交じって、かすかに鈴の音が聞こえることがあります。
今年生まれたばかりの子羊は、お母さん羊に聞きます。
子羊:あれは、なんのおと?
お母さん羊:チリンのすずよ。
子羊:チリンはこわいの?
お母さん羊:そうよ。泣く子がいるとやってきて、ひとつきにされますよ。
子羊は、お母さん羊の胸に顔をうずめて眠ります。
でも、チリンの姿を見た者は、誰一人としてありませんでした。
〜チリンのすず・終〜
「チリンのすず」のテーマ
「チリンのすず」には、以下のような複数のテーマが込められていると考えられます。
- 弱肉強食
- 復讐の虚しさ
- 暴力の連鎖
- 善悪の複雑さ
- アイデンティティの喪失
- 孤独や共生 など
特に、「復讐の虚しさ」が大きなテーマとして伝わってくる物語だと筆者は感じます。
悲しみと憎しみから復讐の道を選んだチリンが、復讐を達成した後に陥る「虚無感」。
チリンにとって、ウォーは大嫌いな憎き敵でした。
しかし、一人ぼっちになったチリンにとって、ウォーは家族のような「いて当たり前」の存在になっていたのです。
その残酷な事実を、失って初めて気づくことになるチリン。
そして、チリンは羊にも戻れなくなり、自分が何者なのか分からないままに孤独な一生を送ります。
とはいえ、この物語は「復讐=NG」という綺麗事を伝えたいわけではないと思います。
なぜなら、親を失ったチリンにとっては「復讐」が生きる気力となり、オオカミよりも強くなることが喜びでもあったはずですから。
このような心の複雑さ、「哀しみ」と「喜び」が隣り合わせであることが描かれた胸を打つ作品となっています。
【あんぱん】リンのモデルはチリン?岩男はウォー?

朝ドラ「あんぱん」に登場する「リン」と「岩男」の物語は、やなせたかし先生原作の童話「チリンのすず」のオマージュである可能性が高いです。
リンの悲しい過去
実は、リンの親は、岩男たちの部隊の攻撃で命を落としていました。
リンの父親は「ゲリラ」だったため、岩男たちの部隊が「ゲリラ討伐」の名目で村を攻撃したのです。
その時、母親は、リンを守るために覆い被りながら亡くなっていきました。
つまり、リンにとって岩男は母親のカタキだったのです。
リンは敵討ちのために岩男に近づくのですが、次第に親子のような関係性となってしまいます。
つまり、「リン」は「チリン」であり、「岩男」が「ウォー」をモデルにしている可能性が高いのです。
セリフでの引用
また、「あんぱん」では、「チリンのすず」の絵本の一節をセリフとして引用していることも分かっています。
あんぱん第12週で、岩男がこんなことを話すシーンがありました。

こいつといると、このあたり(心)がふわ〜っと温かくなるのであります。
「チリンのすず」の中でも、嫌われ者のウォーがチリンから弟子入りを懇願された時に「こころのなかがふわーっとあたたかくなる」という表現がありました。
きらわれもののウォーは
やなせたかし「チリンのすず」
こんなことをいわれるのは
はじめてでしたので
こころのなかが
ふわーっとあたたかくなりました
このように、セリフの中でも「チリンのすず」を思わせる表現が使われていることから、やはり岩男とリンの関係性は、「チリン」と「ウォー」で間違い無いでしょう。
となると、岩男には悲しい結末が待っていることになりますが・・・
リンにとっても、取り返しがつかない辛い別れが待っていることになりますね。
そんな難しい役を演じているのは、日本人の「渋谷そらじ」くんです。
あんぱんのリン役については、こちらで詳しくご紹介しています。


あんぱんで「チリンのすず」をモデル・オマージュした理由とは?


朝ドラ「あんぱん」は、「それいけ!アンパンマン」のキャラクターをイメージした登場人物が多く描かれています。
しかし、今回の中国編に至っては、やなせたかし先生の童話「チリンのすず」がオマージュされている可能性が高いことをお伝えしてきました。
一体、なぜなのでしょうか?
やなせたかしさんは、著書で「チリンのすず」の誕生ついてこのように語っています。
人間にも悪党役の人がいます。
わたしが正義について語るなら(やなせたかし)
でも悪人の中にもある種の正義感はあって、完全な絶対悪というものはありません。
厚生労働省の元事務次官を襲撃する事件がありました。
犯人に、犯行理由を聞いてみると、昔飼っていた犬の仇をうつためと言ったといいます。
本当のところは分かりませんが、犯人は優しい心だって持っていたのだと思います。
悪者は最初から最後まで完全に悪いわけではありません。
わたしが正義について語るなら(やなせたかし)
世の中にはある程度の悪がいつも必要なのです。
現実の社会はそういうところが厳しい。
ぼくはみなさんが社会に出る厳しさを思うと、そういう絵本も読んだ方がいいのではないかと思って「チリンのすず」を書きました。
この本は、多くの人たちに支持されて、ロングセラーになりました。
やなせたかしさんは、「悪者がいる現実社会の厳しさ」を伝えるためにこの本を書いたといいます。
ただ、根底には「善と悪とは?」「正義とは?」という疑問が隠されているように感じます。
それこそがやなせたかしさんが自問自答していた人生のテーマです。
チリンは悪者なのでしょうか?
加害者なのでしょうか?
被害者なのでしょうか・・・。
遠くから聞こえるチリンの鈴の音を聞いて、震えている羊たち。
実は、「もともとは同じ羊だった」「過去に悲しいことがあった」なんて、誰も想像しないでしょう。
嫌われ者のウォーも、一体どんな人生を送ってきたのか分かりません。
立場の違い、感情の複雑さ、出来事の絡み合い・・・
このように生まれる「悪や正義のあいまいさ」や「負の連鎖」をわかりやすく訴えかける意味でも、この物語が岩男とリンのエピソードとして組み込まれた可能性があります。
筆者はこの記事を書きながら、Vaundyさんの「世界の秘密」という曲の一節を思い出しました。
今日どっかで悪者が死んだらしい
Vaundy「世界の秘密」より
でもたくさんの命が救われたらしい
正義と倫理と命を天秤にかけて
量った声明で
難しいことはもう分からない
けれど
実は僕らが悪者だったかもしれない
なんて考えると
彼の気持ちが分かるかもしれない
あなたはどう感じましたか?
よろしければコメント欄にご意見やご感想をお待ちしています。
#やなせたかし さんの絵本が原作
— NHKアニメ (@nhk_animeworld) June 16, 2025
映画「チリンの鈴」、放送決定!
うまれたばかりの子羊“チリン”が成長を遂げていく物語。
オリジナルの35ミリフィルムから新たにテレビ映像化したバージョンでお届けします。
Eテレ 25(水)午前0:00 ※24日深夜
▼詳細はこちらhttps://t.co/Re7A5JMYZv
このタイミングでの放送ということは・・・
やはり「チリンのすず」が、「あんぱん」のリンと岩男の物語のモデルである可能性が高まりますね。
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